世界から少しずれた誰かの、声にならない叫び。ささやかな祈り

サイレント・レジスタンス 39 合流

サイレント・レジスタンス 39 合流

第39話 合流

 屋上へ向かう途中、廊下ですれ違ったのは、サラリーマン風の生身の人間ばかりだった。

 僕は出入りの業者にでもなったつもりで、かしこまって声をかけた。

「失礼ですけど、屋上への道を教えていただけますか?」

 当然ながら、誰一人として返事をする者はいない。

 洗脳されているのか。それとも単純に、僕たちが怖いだけなのか。

 中には、僕たちの姿を見るなり別の通路へ逃げていく者もいた。

 追う必要はない。

 どうせもう、顔は完全に割れている。

 僕と平石は、出会う人間には目もくれず、廊下を進み続けた。

 途中、デスクに座って電話をかけている女性が目に入った。

 僕は彼女の手から受話器を奪い取り、強制的に通話を切った。

「屋上への道を教えて」

 女性は怯えた顔で僕を見上げ、廊下の奥を指差した。

「今、エレベーターは動いてないわ。非常階段で行くの。廊下の左側」

「ありがとう」

 僕たちは教えられた方向へ駆け出した。

 廊下の角を曲がったところで、武装した二人の自衛官に出くわした。

 顔色を見る限り、完全にゾンビ化している。

 僕と平石はとっさに廊下の死角へ身を滑り込ませた。

 幸い、こちらには気づいていない。

 二人が通り過ぎるのを待って、僕たちは再び走り出した。

 やがて非常階段へ通じる扉を見つけ、その中へ逃げ込んだ。

 平石が階段を見上げながら手を動かした。

〈そういえば、船橋さんたちはどこに行ったんだろう?〉

 僕にも分からない。

 スクリーンで船橋たちがこのビルへ突入してくる姿は見た。しかし、こちらから連絡を取る手段はない。

 ここで待っていても、出会える可能性は低い。

 それより、凛々子を探して屋上へ向かう方がいい。

〈とにかく上へ行こう〉

 僕は階段を駆け上がった。

 平石も後に続いた。

 何階分上ったのか分からなくなった頃、上の踊り場に人影が見えた。

 しかも一人や二人ではない。

 十数人いる。

 僕と平石は足を止めた。

 何人もの人間が、青と白の3D兵器を抱えていた。

 その中から、小太りの男がこちらを振り返った。

 船橋だった。

 僕と平石は、ようやくレジスタンス部隊と合流した。

 船橋は携帯端末で本隊と連絡を取りながら、周囲のメンバーに手話で指示を出していた。

 僕たちの姿を見ると、顔をほころばせた。

〈おお、無事だったか。こんなところで会えるとはな〉

 僕と平石は顔を見合わせた。

 やっと少しだけ、肩の力が抜けた。

 応援部隊は十数名。全員が武装している。

 ハンドガン型、マシンガン型、それに僕たちがまだ見たことのない大型の3D銃まであった。

 これだけ揃うと、なかなか壮観だった。

 メンバー同士はほとんど手話でやり取りしている。船橋を除けば、大半がろう者なのだろう。

 話を聞くと、彼らも僕たちが上ってきた非常階段を使って、ここまで進んできたらしい。

 途中で何体かゾンビに出くわしたが、すべて3D銃で片づけたという。

 船橋が端末をポケットにしまった。

〈屋上まで、もう少しだ〉

 僕は平石を見た。

 平石も頷いた。

 休んでいる暇はなさそうだ。

 僕たちは船橋たちとともに、再び階段を上り始めた。

つづく

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